本記事は、「FARCRY4(ファークライ4)」のネタバレを含むので。読みたくない人は、そっとブラウザを閉じてほしい。また、本編のキャンペーンモードを一度クリアしたことがあると、本記事の内容がよく理解できると思う。
なんかスッキリしないエンディング
純真無垢な若者が突如狂気の世界に放り込まれてドンパチやるFPSシリーズの第4弾「FARCRY4(ファークライ4)」。本作では、アメリカで育った主人公エイジェイが母の遺灰をまきに故郷「キラット」へ戻ると、内戦に巻き込また挙句、反乱軍として王立軍と戦うハメになる。
ゲーム序盤でシークレットエンディングを選択しない限り(*1)、反乱軍「ゴールデンパス」の一員として王立軍を倒すルートになる。また反乱軍にいる二人のリーダー(アミータ/サバル)のいずれかプレイヤーが支持したほうのエンディングが見られるわけだが、結局どちらを選んでも「裏切られた感」が強く、なんかスッキリしない。
(*1)~敵ボス「パガン・ミン」との会食時、彼の指示通りにその場に15分程度留まると、フラグ成立でカットシーンへ
諸悪の根源であるパガン・ミンとその一派を成敗し、「これでキラットも平和になる! いやー、いいことしたよ~ 俺」 とか思っていると、サバルやアミータがパガンと同じような圧政を敷こうとしているシーンを見せつけられる。手のひら返しをされたショックと、「俺の今までの努力は一体・・・」的な感覚で、なんとも重い気分になるのだ。
しかし、それは「なぜ彼らがその道を選んだのか」というバックグラウンドが、我々プレイヤーに伝わらないから。彼らの心情や思いがわからないので、「なんだパガンとおんなじでヤバい奴らじゃん」程度の見方しかできない。ほかの方のレビューにも散見されるが、本作ではシナリオ全般とキャラの描写が不十分で、普通にキャンペーンをクリアしても今いちよくわからない部分が多い。更にNPCとの会話やサブミッションなどで、背景を掘り下げられるような情報も得られない。
ではその答えがどこにあるかというと、本ゲームのモデルとなった実在の国「ネパール」だ。史実を掘り下げてみると、意外にもサバルやアミータの思想が理解できるヒントが見つかった。ゲームと現実をフラットに論じることはナンセンスなのは百も承知だが、ゲーム本編で描かれていない要素をモデルとなった国から読み解く試みに少しでも興味がわいたなら、少々お付き合い頂ければ幸いだ。
FARCRY4開発陣は「ネパール」をモデルに採用
鬱蒼と茂る森林地帯と大雪を纏ったヒマラヤ山脈を見ただけで、なんとなくモデルとなった地域をイメージできた人も多いだろう。2014年にアメリカで開催されたイベント「Comic-Con International 2014」のパネルディスカッションで、UBIソフトのディレクターが述べている通り、FARCRY4のモデルは実在の国「ネパール」だ。開発陣は実際にカトマンズまで足を運び、現地調査をしている。その模様は短いドキュメンタリー映像にまとめられ、YouTubeにアップされているので、興味のある方はご覧になるとよいだろう(英語だけど・・・)。
映像は全部で3部構成のようだ。参考までにパート1の映像を紹介する。(続きも見たい人は、YouTubeでみつけてね)
ネパールには市民戦争による血生臭い歴史があったり、独特の宗教、風習が根付いており、開発陣はそういった情報にインスパイアされたようだ。そのためネパールの実情や政治・宗教なんかを掘り下げることで、仮想国家「キラット」の内情もうかがい知ることができるだろう。
「ネパール」を知る
まずはネパールの歴史や現状について、簡単にまとめてみよう。
市民戦争による血生臭い歴史
長い間王政を採ってきた同国は、1996年にネパール共産党毛沢東主義派(以降、毛派)が王制を打破すべく「人民戦争」を開始。その後、10年に渡って内戦が続くものの、2006年に政府と毛派が無期限停戦に調印して内戦が終結した。しかし、内政不安はしばらく続き、2008年にようやく「連邦民主共和制」と宣言して正式に王政が廃止。国王は退位し、ネパール王国は終焉を迎える。これによって国王は国家元首としての地位を失い、首相が代行するようになった。封建的な社会制度との決別を体現するように、国号は「ネパール王国」から「ネパール国」に変更され(2008年に日本政府は同国を「ネパール連邦民主共和国」と改めている)、王室を讃える国歌は廃止され、王室と密接な結びつきがあるヒンドゥー教は国教ではなくなった。
貧困と食糧問題
ヒマラヤ観光などの観光産業もあるが、主要産業は農業(人口の80%が農業中心の生活)。そのためGDPは低く、貧困問題や食糧危機等の課題がある。特に地方の貧困や医療問題は顕著で、国連の報告によると世界の中で最も健康格差の大きい地区とされている(豊かな非先住民と貧しい先住民の平均寿命が20年も違うらしい)。また2008年には政情不安の影響から、1日あたり16時間も計画停電を行うなど、インフラの整備状況にも課題を抱えている。
宗教とカーストによる複雑な社会
ネパール人口の80%はヒンズー教徒だが、ほかにも仏教やアニミズム(あらゆるモノや生物に霊が宿っているという考え)が混在する多民族、多言語国家であり、カースト制(身分制度)がいまだに残っている。身分制度の最下層であるダリットは社会の中で差別的な扱いを受けており、また未だに迷信が信じられている影響もあってか、魔女狩りの被害に逢う女性も大勢いるようだ。また児童婚が禁止されているにも関わらず、全体の4割(それ以上とも言われる)の女性は18歳未満で結婚させられているとのデータもあり、中には強制結婚という伝統的風習に抗えない地域もあるらしい。2015年時点でそんな地域がまだあるということ自体が恐ろしいが、こうした女性達は辺境の地で孤立していることが多く、光が当てられるケースはまれらしい。
これら「ネパール」の実情と同じ状況が、「キラット」にも存在するという前提で、アミータとサバルの動機に迫っていこう。
一応、これらの参考文献も示しておく。AFP通信の記事は特に参考になった。
【参考文献】
ネパールの少女強制労働「カムラリ」、2016年までに撲滅目指す
http://www.afpbb.com/articles/-/2888628
13歳で誘拐され結婚、「ダリット」の少女たち ネパール
http://www.afpbb.com/articles/-/3044603?act=all
ネパール、3歳の少女が生き神「ロイヤルクマリ」に
http://www.afpbb.com/articles/-/2525730
ネパール政府、「電力危機」を宣言 1日16時間の停電へ
http://www.afpbb.com/articles/-/2552763
先住民は非先住民より20年寿命が短い、国連報告書
http://www.afpbb.com/articles/-/2682854
ヒマラヤの秘境に「一妻多夫」の村、 ネパール
http://www.afpbb.com/articles/-/2905806
ネパール from wiki
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB
アミータのエンディング
キャンペーンでサバルを排除する選択をした場合(殺さなくてもOK)、アミータエンディングとなる。キャンペーンの最終ミッションでパガンと対峙したあと、ティルタの町に行くと彼女のカットシーンを見ることができる。
映像では、アミータはキラットの新しい産業を興すために、パガンの麻薬畑を活用して医薬品の製造を国を挙げて取り組むことを決意。しかし、麻薬に関わることを好まない国民はこれを拒否してしまう。業を煮やしたアミータは、銃で恐喝しながら若者を強制的に連行し、麻薬生産に駆り立てていく といった模様が見られる。また彼女自身が目をかけていたバドラという少女も「遠くへやったから探すな」的なリアクション。ひょっとして殺しちゃったの?という不信感を抱かせるため、前述の強硬な姿勢と相まって裏切られた感マックスとなる。
バドラは殺されたの?
他のプレイヤーさんの感想を見ていると、バドラは殺されたという意見が散見されるが、私はそうは思わない。将来のタルン・マタラと崇められ、まるでモノのような扱いを受けるバドラをアミータは気にかけており、自分の傍におきながら戦いの術を教えるなど、一人の人間として自立できるよう教え導いていた(キャンペーンのカットシーンで、弓の使い方を教えたり宗教への嫌悪を示すシーンあり)。またアミータは封建的なバリバリの男社会の中で女性兵士から身を起こし、ゴールデンパスのリーダに上り詰めており、様々な苦汁を味わってきたと思われる。そんな彼女が自分と同じような境遇に置かれている少女を殺すとは考えにくい。キラット国内に留まっていては、宗教的な象徴という目で見られることを避けられないので、イシュワリがエイジェイを渡米させたように、海外へ移住させたと考えるのが自然だと思う。そう考えると「探さないで」というセリフも理解できるし、彼女の対処にも共感できる。
国民の強制連行はありなの?
「望まない人々を無理に駆り立ててまで、麻薬を栽培する必要あるの?」という点がポイントだろう。
アミータは医療問題をことさらアピールしていたが、封建的な男性社会の中で女性が人間らしく活き活きと生きていくには、教育(知恵)と生きるための糧(金)が不可欠だ。だが、教育を施すには学校などのインフラが必要だし、それなりの収入を確保できる仕事も必要だ(生活費を稼ぐのに汲々としていたら教育を受ける余裕はない)。ネパールの農村部における平均年収は300ドルと言われているので、キラットも同水準だと仮定すると、いかにカツカツな生活なのか容易に想像できるだろう。またこのような低収入が、十分な医療が受けられない問題にも直結している。
では現在の主要産業である農業を地道に伸ばして、収益化していく方法はどうかというと、それは極めて難しい。国土の大半が山岳地帯ということで、耕地面積が限定されるため、いわゆる「フロリダのトウモロコシ畑」のような大規模農業ができないからだ。加えて特定の鉱物資源もないという状況では新しい産業を興すのも困難だ。そのような状況下で医薬品を生成できる麻薬という産業はアミータにとってかなり魅力的に見えたはずだ。「ほかに選択肢がない状況で、”麻薬はイヤ”とか、四の五の言ってんじゃないわよ」というのが彼女の本音だろう。
さらに、生活が極めて困窮していたとしても、それが長い間続くことで感覚が麻痺してしまい、「現状を変えたい」という発想が起こりにくくなる。アミータは「封建的な男社会」や「古臭い伝統」と同じくらい、「現状維持に甘んじる国民」も憎いのだと思う。アミータが女性として味わってきた苦労やキラットの状況を思うと、彼女の対応も頷ける気がする。
強制連行のカットシーン再生後、アミータを殺せる状況になるが、彼女の後姿は「私を殺して王になったとして、あなたならどう国民を導くの?」と問われている気がしてトリガーを引けない。
サバルのエンディング
キャンペーンでアミータを排除する選択をした場合(殺さなくてもOK)、サバルエンディングとなる。キャンペーンの最終ミッションでパガンと対峙したあと、ジャレンドゥ寺院に行くと彼のカットシーンを見ることができる。
映像では、バドラをタルン・マタラとして擁立し、彼女の前でアミータに属していた兵士達を次々と粛清していく。「あれ、仲間の命が大事とか、言ってなかったっけ?」という矛盾と、「まさかバドラと結婚する気じゃないよね?」という不信感(モハン・ゲールの妻イシュワリはタルン・マタラなので、モハンを崇拝するサバルがそれに倣う可能性は高い)を抱かせる。アミータが警告していた通り、「こいつ、結局は自分のためにやってんじゃない?」と感じさせることから、裏切られた感マックスとなる。
なんで宗教とか伝統にこだわるの?
「サバルがなぜそこまで旧習にこだわるのか?」という点がポイントだろう。
ネパールでは王政が廃止されるまで、ヒンドゥー教が国教とされており、年間の節目節目で様々な祭典が催されてきた。こうしたお祭りでは、ヒンドゥー教の神様であるビシュヌの化身とされる国王が国民の祝福を受けることになっているらしい。(王制廃止後は国王が一般人になってしまったので、誰がこの祭事を司るかで揉めているようだ)また単なる宗教イベントというだけでなく、生き神とされる「クマリ」が国王を祝福することで、国王の統治が暗黙的に承認されるという意味合いもあったようだ。そう考えると、複数の民族が混在し、カースト制もある複雑な社会で、何百年も続くこうした祭典は「民族・言語・宗教を超えて国を1つにまとめる」大切な要素と言えるだろう。
キラットにも同様の状況が当てはまるとすれば、サバルも伝統を拠り所として国内を統一することを模索していたのだと思われる。また彼から見ると、伝統や宗教を捨てて近代化に走るアミータのような存在は、国家としての統一を阻害し、祖国を分断してしまう危険分子と見なされるのもうなずける気がする。これが更にヒートアップすると、「神に唾を吐くような輩は始末してしまえ」といった危険な発想になってしまうのだろう。
筆者はアミータに共感
私はアミータとサバル、どちらの想いも理解できたが、アミータのほうを支持したい。古い慣習に何年も浸った人々は、思想が固定化してしまっており、自らの意志でよりよい方向へ変化していくことは難しい。だからアミータのように、多少強引なやり方でないと社会を大きく変えることは難しいだろう。サバルのように伝統を重んじるのも大切だが、なんか現状維持に甘んじているような気がする。しかもこういった原理主義的な発想がヒートアップすると、どこぞのテロ組織と同列になってしまう恐れもある。
ということで、「FARCRY3」では完全に女に騙されてしまった私だが(それゆえにキャンペーンではサバルを支持していた)、今はアミータを支持したい気持ちに変わった。ただ、「あなたなんかに、わかってもらわなくていいわよ」というエリカ様的な態度が、若干カチンとくるので、もう少し女の子っぽくふるまってほしいのだが・・・